TTスペシャリストであり、総合ライダーでもあるトム・デュムラン。
2017年にはジロ・デ・イタリアでマリアローザも獲得したトップライダーの一人が、マルセル・キッテルのようにロードレース界から去ることになりそうです。
前日のチームからのアナウンスでは2021年のツール・ド・フランスにプリモッシュ・ログリッチと二人エース体制とされていたのにも関わらず、翌日には長期休暇を取ると宣言し、チームにも認められ、トレーニングキャンプを去りました。
この記事の内容
トム・デュムランの軌跡
2017年
彼の語る上で、彼の最も輝かしい瞬間は、世界選手権の個人タイムトライアルではないでしょうか。
中央でアルカンシェルを纏うトム・デュムラン。
シルバーに輝いたのはプリモッシュ・ログリッチ。
ブロンズにはクリス・フルーム。なんとも豪華な表彰台です。
その中で圧倒的な強さを見せ優勝したトム・デュムラン。
2018年
翌年、アルカンシェルカラーのデュムランの個人タイムトライアルは本当に目を見張る成績で、フルームとはまた違う強い総合系ライダーが出てきたものだ、とワクワクしたのを覚えています。
2018年のジロ・デ・イタリアでは、サイモン・イエーツが前半から好調でしたが、その好調さにしっかりとデュムランも付いていき、総合2位に食らいついていました。
そのサイモン・イエーツが大崩れした第19ステージ、デュムランのマリアローザ奪取及び連覇がかなり近くなったにも関わらず、あの伝説のフルームの大逃げを阻止することができず、残念ながら総合2位で終えます。
2019年
そして事故は起きてしまいました。
ジロ・デ・イタリア、ステージ4での落車です。
膝を打ち付けてしまったデュムラン。怪我の程度はそれほど大きくなく、すぐに復帰できるだろうと当初は考えられていました。
実際にリハビリを数週間で終え、ツール・ド・フランス前哨戦であるクリテリウム・ドーフィネで復帰をしますが、ステージ6でリタイアしてしまいました。
膝に違和感を覚えたそうです。
詳細な診察を受けたところ、膝の中にアスファルトの欠片が残っていることが分かり、それを取り除く手術を受けることとなりました。
こうして彼の2019年のシーズンは終わりました。
その膝の怪我に関して、チーム・サンウェブとデュムランの間に軋轢が生じ、その結果、2020年からはユンボ・ウィズマに移籍することになります。
2020年
イネオスに対抗できうる最強のチームとなったユンボ・ウィズマ。
その躍進にはデュムランの功績が大きく影響しています。
彼自身、パフォーマンスは2017年の時ほどではないにせよ、グラン・ツールで最終局面まで残り、ログリッチとどっちがエースかという程に好調な姿を見せてくれていました。
ただ2020年のログリッチは最強すぎたこともあり、最終的にはデュムランはログリッチのアシストに回りましたが、心機一転、大きく活躍しているデュムランの姿を見てうれしく思いました。
何がしたいのか?まだライダーでいたいのか?どのように?
2020年はご存知の通り、コロナウイルスの影響で大きく人の生活、考え方が変わった年です。
ロードレース界もそれに翻弄され、開催時期の変更、開催期間の短縮、関係者以外と接触の許されないバブルの形成、レースの相次ぐキャンセルとニュースを上げれば枚挙にいとまがありません。
デュムランも恐らく、そんな生活の中で、自身が何をしたいのか、まだライダーでいたいのか、ということを見つめることができたのでしょう。
プロサイクリストとして、チームや、スポンサー、応援してくれる人の為になりたいとも思う反面、家族や妻を幸せにしたいという気持ちのバランスが、ここで崩れてしまったようです。
奇しくも彼がユンボ・ウィズマのトレーニングキャンプから離れたのは、ツール・ド・フランスの共同リーダーとして発表された日の翌日でした。
つまり本当に直前の直前まで迷い、葛藤し、プロとして走るべきか、人として自分の心に従い、家族のもとに帰るべきか、自分で決めたんだと思います。
その決断は、マルセル・キッテルが30歳になり、子どもが生まれる時に、プロサイクリストを続けられないと決断した様子に似ていると感じました。
マルセル・キッテルは彼のインスタグラムでトムの決断を支持しています。
まとめ
僕たちも、同じように、ある種、流されて生きている側面があると思います。
学校に行くのも、会社に行くのも。
勉強するのも、遊ぶのも、居眠りするのも、何かに一生懸命に取り組むのも。
果たしてそれが本当に自分のしたいことなのか。
今だけではなく、人生において、どんな生涯を送りたいのか。
トム・デュムランにとって、トレーニングキャンプを去ることは、会社員で言えば、仕事をただ辞めることに近いと思います。
それがどれだけ怖く、勇気のいる決断か。
でも、その決断をできるだけ自分と見つめ合ったからこそ、ツールのメンバーはお前だと言われても、それを断るれるほどの、自分の芯を彼は見つけられたのでしょう。
僕は何をしたいのだろう。どう生きて、どんな生涯を送りたいのだろう。
僕も考えてみたいと思います。